落書き島より

好きなだけ落書きだー!

福袋

明けましておめでとうございます。

初詣に行ってきましたが、神事や初売りの賑わいはいつ見ても飽きないものですね。僕もつられて福袋を買ってしまいました。

 

これはたまにやってみたくなるのですが、これからの文章は、その日道端であったことに自分の価値観を織り交ぜて(たまには嘘も?)、書き起こしたものです。少し前にカポーティに影響を受けたのがきっかけで、文章の練習にちょっと良いんじゃないかなあとか思ってます。

 

***

 

 年明けの商店街を歩いていると、あるお店の前で人だまりができている所へ出くわした。まだ1月2日だというのに、開店していて、人が並んでいるというのも珍しい。好奇心が手伝って覗いてみたら、そこは甘味で有名なデザート店だった。

 ガラス張りのドアには、『シャーベット福袋!8個2000円!』との宣伝文句が貼られ、客たちはこの文句に誘われて来ているようであった。すぐそばに、入ろうか、入るまいかと逡巡している中年夫婦がいる。夫の方は、

「いやあ8個で2000円と聞くと、そんなに安い気もしないねえ」

 と悩んでいるが、妻は呆れた様子で、

「そんなことないわよ。よく考えてみなさいよ、あそこの貼紙を……」

 と指したものは、店内の黒板。年明けセールを謳う貼紙と同じカラフルな色調だが、店の雰囲気を形作るピースであることを意識して、丁寧にデザインがなされている。

「外からじゃあよくわからないけど、あれ、通常は6個で3000円って書いてない?」

 今度は夫が呆れる番だった。この分野においては、まったく妻に勝てそうもないと悟ったのだろう。彼は前髪のかかった垂れ目をさらに緩ませて、

「ほんとにお前は目敏いもんだね。じゃあ確かめるために入ってみるか」

  といよいよ入店を決意する。

 

  店内の正面には商品棚が陳列し、その脇にはレジ、食事席が並んでいる。食事席にはすでに一杯の客が座っていて、デザートを食べながら年明けの四方山話に興じている。

 先ほどの中年夫婦は、妻が夫を先導する形で入店してきた。夫は妻の話が本当だったことを確かめると、にわかに難しい顔をする。

「しかしシャーベット福袋か。いったい、何が入っているんだろう」

 妻は抜け目なく商品棚を見ながら、笑って言い返す。

「そりゃ福袋なんだから、きっと良いものが入っているのに決まってるじゃない」

 しかし、その言葉に同調できないのが夫の性格であったようだ。店員を呼ぶと、

「この福袋っていうのは、ここに並んであるものがランダムで入ってるってことなのかい?」

「はい、基本的にはそうです」と、店員。

「基本的には? すると、ここに並んでないのが入ってることもあるのかい?」

 店員は目元を緩ませて、

「そうなんです。もう、私でも何が入っているのかわからなくって……。開けてみるまでの、お楽しみですよ」

 と、楽しげに答える。その様子があまりに楽しそうなものだから、夫もつられてしまったように明るく言う。

「いやあ、それは大盤振る舞いだね。そんなスペシャルなものをもらえるなんて、まさに福袋じゃないか」

 

 この会話を商品棚を見ながら聞いていた妻は、ここが勝機とばかりに夫を攻める。

「これならあの子たちも喜ぶわ。家に帰ったら、一緒に炬燵に入って、ゆっくり食べてなさいよ」

 しかし、妻を振り返ったときの夫は厳しい顔だ。少し声量を落として、

「いや、ここに並んでないのも入っているんじゃあ、ほんとに何が入っているかわからないよ。それは怖いよ。考え直そうよ」

 もちろん、妻もこれで納得できるはずもない。福袋、スペシャル、というような言葉の響きが、彼女を年初めの購入欲に走らせているようだった。夫は困ったように頬を掻いている。

 そうして、二人はしばらくシャーベット福袋の是非について、話しはじめた。僕はそのうちに頼んでおいた福袋ができあがったので、受け取って店外へ出た。

 

 それから、結局あの夫婦が福袋を買ったのかはわからない。たぶん、あの穏やかそうな夫が妻の説得に根負けしたのかもしれないし、もしかすると突然、家長として家の財政を守らねばならぬという謹厳な使命に目覚めた夫が、もっと合理的で確実に楽しめるものを買おう、とビシッと提案したかもしれない。なんにせよ、正月の買い物を存分に楽しんだことだろうと思う。

 

 さて、ここまでお読みいただいた皆さまは、福袋を買われましたでしょうか。もし買われていたら、その中身にたくさん福が詰まっていますように。